- 6.美奈の季節
-
いつもより早く家を出たせいで、 拓也が駅についたのは約束より十五分以上も前であった。 時間つぶしに本屋に向かう拓也が待ち合わせ場所に何気なく目をやると、 果たしてそこには美奈がいた。
「み、美奈…?」
驚いて駆け寄った拓也に、 美奈はにっこり微笑んだ。
「えへ、今日は美奈の方が先ですね。」
美奈の赤らんだ鼻の頭や震えている可愛い声は、 彼女が何十分も前からここに立っていたことを示している。
そんな美奈がたまらなく愛しくて、 拓也はぎゅっと美奈を抱き締めた。
「た、拓也さん、みんなみてますよぉ」
胸の中でばたばた暴れる美奈を離し、 彼女の顔を見つめていると、拓也は今なら照れず言えるような気がした。
『美奈のこと、好きだよ』
美奈は極上の笑顔で答えてくれた。
「えへへ、美奈も拓也さんのこと、大好きです。誰よりも…」
肌を刺す二月の風は春を拒むかのように頑なだが、 季節は巡り、やがて夏がくる。
ふたりが出会った夏---美奈の季節が。
FIN
|