- 1.冬の街角
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待ち合わせ場所はいつもの、駅前のブライダルブティック前。
最近までこの場所に立っているのは拓也にとって気恥ずかしく、 苦痛ですらあったが、 今では待ち合わせの少し前から彼女を待つこの時間が楽しみであった。
時計が約束の5分前を知らせ、 拓也はショウウィンドウに寄りかかり、目を閉じた。
やがて駅前の喧噪の中からひとつの足音が近づいてくる。 タッタッタッと、小柄な体を運ぶその足音は、拓也の前でぴたっと止まった。
目を開けると、そこには息を切らせてこちらをのぞいている美奈がいた。
「ごめんなさい、拓也さん。また遅れちゃいましたね。えへへ」
十二月の冷たい風は彼女の頬を微かに紅く染め、 ただでさえ幼い美奈の顔をさらに幼く見せている。
拓也はポケットから出した右手を美奈の頬にそっとあてた。
「ううん、それほど待っていたわけじゃないよ。」
「うふ、あったか〜い」
美奈は拓也の手に自分の手を重ねて頬に押しつけた。 そんな仕草を拓也はたまらなく可愛いいと思う。 美奈と会った半年前からこの印象はずっと変わっていない。 夏休みのアルバイト先で二人は出会い、かれこれ半年間つきあっている。
その間、大してケンカらしいケンカもせず二人の仲は続いていた。
『いや、一度だけあったかな』
腕を組んで映画館へと向かいながら、 拓也はその一度だけのケンカを思い起こしていた。
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