- 3.ザ・パーティー
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パーティ当日、 拓也は予備校の校内模試を受けていた。
9割方埋め終えた解答用紙をその場に伏せると、 拓也は終了のチャイムを待たずに席を立った。
息の詰まりそうな試験会場から解放され、 拓也は足どりも軽く、今日のパーティの会場へ向かった。
地図を頼りにたどり着いたのはマンションの一室。 ここが店長の家らしい。
呼び鈴を鳴らすと、 美奈がドアを開けて迎えてくれた。
「あー、拓也さん、いらっしゃい」
「ごめん、遅くなった。 日野森もお久しぶり。」
拓也は美奈の後ろから現れたあずさに声をかける。
「ほんと、久しぶりね。模試だったんでしょ、ご苦労様。」
「うん。あ、これつまらないものだけどお土産ね。」
拓也はそういって、抱えていた花束を美奈に渡す。
「わぁ、綺麗〜。店長さんに飾ってもらいますね」
拓也が差し出した花束を、美奈がうれしそうに受け取った。
拓也は用意されたスリッパに履き替え、二人とともに部屋に向かった。
「つかさちゃんは追い込みだから来れないって。」
あずさの台詞に、拓也は真士がなにやら忙しそうにしていたのを思い出した。
「本店はいつも通りだから、 涼子さんと葵さんも来れないんです。美奈つまんない」
夏休みの間、 なにかと面倒をかけた二人に会えないのは 拓也にとっても残念なことであった。
「そうかぁ。神楽坂や早苗さんは?」
「神楽坂くんは来れなかったけど、早苗さんはいるわよ。」
あずさがそう答えながら開いたドアの向こうで、早苗さんが迎えてくれた。
「こんばんわ、拓也さん。お久しぶりですね。」
「あ、お久しぶりです。ここのところキャロットにも顔を出してないから…。」
そう言うと、早苗は相変わらずの丁寧な口調で答えた。
「うふ、美奈ちゃんからお話は伺ってます。」
「こら、何言ったんだ?」
「えへへ、内緒です。」
「うふふ…」
拓也たちが騒いでいるとキッチンから店長が顔を出した。 結婚式の前に短く切った後ろ髪はまだ束ねられるほどに伸びてはいない。
「やあ、拓也君。よく来てくれたね。」
「あ、店長さん、お久しぶりです。その節はお世話になりました。」
「いやこちらこそ、君のおかげで助かったし、それに楽しかったよ。」
店長の後ろから二人の女性が現れた。
「拓也君ね。式に来てくれてありがと。」
「こちらこそ、呼んでくださってありがとうございました!」
「あ、拓也くんだー。元気だったー?」
「留美さん、こんばんわ。」
拓也は予備校の帰りに美奈を迎えにキャロットに行くこともあり、 留美とは何度か話をしたことがあった。
「とりあえず、もう一度乾杯しましょ。」
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