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夜の帳も落ちた黒き闇の中を、大小さまざまな光の筋が、
俺の左から現われ、そして右へと消えていく。
都心に向かう電車の中も、日曜の夜とあっては、人影も
まばらで、夜の静けさが一層強調される。
電車が一つ大きく揺れる。
その揺れで僅かに身じろぎする美奈ちゃんを、俺は優しく
包み込み、その小振りで可愛い頭を、元の位置俺の右肩へと
戻してあげる。
昼間の遊園地で、はしゃぎすぎたのだろう。
美奈ちゃんが夢の世界へ誘(いざな)われたのは、電車に
乗ってから、それほどの時間も経たないうちだった。
静かな寝息を立てている美奈ちゃん。
ありきたりな表現ではあるが、その寝顔は、まさに天使の
ようであった。
いくら見ていても飽きない。
飽きるどころか、その無垢な表情に俺の心が否応無しに
引き込まれていってしまう。
見ている者に安らぎを与えてくれる。
そんな寝顔だった。
電車がまた大きく揺れた。
その揺れに美奈ちゃんの小さな頭が俺の肩から逃げていく。
慌てて美奈ちゃんを抱きとめる俺。
ほっと安心し耳を澄ませば、俺の胸の中から、美奈ちゃんの
規則正しい寝息が俺の耳へと届いてくる。
どうやら、彼女の眠りを妨げずに済んだようだ。
「・・・さん」
その美奈ちゃんの口から、俺の名前が紡ぎ出される。
やはり起こしてしまっていたか。
内心舌打ちし、ゆっくりとその顔を覗き込む俺。
その表情を見た時、俺は体の中に電流が流れるのを感じた。
天使のような安らかな寝顔。
そこに浮かぶ、幸せそうな輝く笑顔。
何の不安もなく、安心し切った、自分の本当の居場所を見つ
けたような、極上の笑顔。
これを極上と言わなければ、世の中には極上などと言うものは
存在しない。
その極上の笑顔に、俺は、完全に魅入ってしまっていた。
もう何も考えられない。
俺には美奈ちゃんがいる。
そして、それが俺の全てだ。
そう思った時、俺は美奈ちゃんを優しく包み込み、俺の胸の
中へと引き込んでいた。
電車はもうすぐ目的地に着いてしまう。
でも、今は、一分でも、一秒でも、ほんの一瞬でも、この幸
せを噛み締めていたかった。
この世に存在する最高の幸せを・・・。
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